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脱皮

1.はじめに

 ミステリー好きにも、純文学好きにもオススメな本を紹介します。とても読みやすいですが、内容はしっかりしています。面白さを保証します。

 

シティ・オヴ・グラス (角川文庫)

シティ・オヴ・グラス (角川文庫)

 

 

2.テーマ

 自分を見つけたと思ったら、また新たな自分。また新たな自分。

 脱皮を繰り返すような、自分探し。ぜひ体験してみてください。

 

3.おわりに

 作者の叫びを聞いてください。

 これこそ、処女作のあるべき姿です。

作家(神 慶太氏)からのいいね

1.はじめに

 モンキー Vo.9 を立ち読みしてほしい。

 82ページ 『浴室と私たちの「海」』 神 慶太  を。

 たった1ページ。正味10分です。

 

MONKEY Vol.9 短篇小説のつくり方

MONKEY Vol.9 短篇小説のつくり方

 

 

2.理由

 ぱっとイメージが湧くのは、

堀江貴文内田樹村上龍茂木健一郎藤原和博堀紘一

まだまだたくさんの人が共通して提起していることを、巧みなメタファーで訴えてる感じがするから。

 提起の内容についてはあえて書きません。

 何となくわかる人は是非読んで感想を聞かせてほしい。

 なるだけ多くの感想を聞いてみたい。

 

3.おわりに

 ツイッターに「神慶太っていう小説家力があると思う。・・・」という書き込みをしたら、ご本人がなんと「いいね」をくれた。

 感想が集まったら、ご本人がコメントしてくれるかもと期待している。

 「遠巻きなことしてないで、聞いてみろよ。」という意見もあるかもしれませんが、今はまだできないでいる。

失礼かどうかも考えられていないし、「全然違うよ。」ってなると、なんともカッコ悪いので。

 でも本当に。何か感じる、残る文章なんです。

小説はこう書くのか

1. はじめに

 圧倒的なパワーを感じる本に出会いました。

 読むのにも大変苦労しました。

 ブログにするまでも相当の時間がかかりました。

 ストーリーに着目するより、どんどん引用したほうが紹介の意図が伝わりそうなのでそのようにします。

 

 

 

2.あらすじ 

 11歳で傑作小説を残し逝った天才。

 その生涯を同じく11歳の友人が伝記として残す。

 これが簡単なあらすじである。

 背表紙のあらすじを読み、

 「なかなか斬新な展開を考えついたものだ。終末が気になるな。」

と思ったが、読み終えたら全く違った感想を持つことになった。

 

 

3.私見

 書きたくてたまらないことがある。

 長い間この気持ちを募らせに募らせ、爆発してしまいそうだ。

 なぜ書けない、なぜ書けない。苦しむ。

 

 こう考えてみたらどうだろう?

 書きたいことを書きやすい展開は果たして何だろう?

 

その後にたどり着いたのが、このストーリーだったのではないか。

ストーリーが決まり、書きたいことをどんどん文中に落としていった。

このような感想を持った。

作者は長い間、描写たちを大切に集めていたのではないかとも思える。

多彩な種類の描写が実によくできている。

 

 

4.描写の引用

a.幼少期の強い印象 

僕らは覚悟を決め、炎のように焼けつく長い砂漠を一気に駆け抜けた。ひりひりと焼けた白い砂の波が足の上に襲いかかり、足の裏よりも、むしろ皮膚の薄い足の甲の方が熱かった。

 

最初の波が腹を濡らすと、腕に鳥肌が立ち、サメの背ビレでも見たように全身の筋肉が硬直する。これ以上進むことは、もはや水の中で呼吸するのと同じくらい非現実的なことに思えてくる。頭のどこかでは、体の下のほうはもう水に漬かっているのだし、冷たい水だって結構気持ちいいじゃないかという声がするのだが、体のほうでは、それがとうてい信じることのできない詭弁としか思えない。

 

b.作品中で見せる鋭い回想

僕は一度たりともローズ・ドーンに好意を抱いたことはない。しかしだからといって彼女の肖像に実際以上に暗い影をつけ加えたのでは・・・信憑性を傷つけることになる。ローズ・ドーンは、いつもいつも僕らを悩ませていたわけではなかった。・・・ぼんやりともの思いの淵に沈み、深い白日夢の底で異形の神々と交信している時もあった。そんな時の彼女は穏やかで、愛くるしくさえあった。無邪気、純真と言ってもよかった。

 

権威に対して白昼堂々と反逆することができなかった。できなかった、というのは正しい表現ではないかもしれない。・・・反抗しようという気がこれっぽっちのなかったのだ。・・・自分の意思にかかわらず大人たちの命令には服従しなければならないという事実を、たとえば痩せているという事実と同様、仕方ないこととして受け入れていた。それに痩せているというのがそう悪いことばかりではないように、服従することにもそれなりの利点があった(時には夢のような完璧な自由に憧れもしたが)。しかし、自由は服従をすることで初めて得られるのだ。アーノルド・ハセルストームは、自分の意思に染まぬ命令には従わなかったために、常に大人たちと衝突していた。僕は彼ほど束縛の多い人生を送った者を他に知らない。彼は絶えず放課後に居残りいさせられ、校長室に送られ、権利を奪われ、そうでない時も猜疑心の強い大人たちに、よってたかって監視され、批判され、叱責され、迫害されていた。それにひきかえエドウィンは言いつけに素直に従うことによって、かなりのことを彼自身の裁量に任されていた。その意味では、エドウィンの服従は必ずしも純粋とは言い切れず、むしろ限りなく不服従に近かった。なぜなら、不服従の目指すところは自由だが、エドウィンの服従の目指すところも同じように自由だったからだ。

 

エドウィンの壮年期に入るにつれ、カレンの顔に暗く、悲しげで深刻な表情が増えてくるのに気がついた。エドウィンが彼女にした数々の辛い仕打ちの、動かぬ証拠がそこにあった。服は気になってカレンを見たが、彼女は何も気づかないのか、無邪気に笑いながら写真を見ていた。僕は兄たちに見捨てられたこの世の妹たちの哀れさを思い、悲しみに胸を詰まらせた。

 

c.場面描写

ローズ・ドーンの死は彼を悲しみのどん底に突き落としたというのに、季節はまるでちぐはぐな服を組み合わせるように、まったく彼の気持ちを反映していなかった。

 

エドウィンのバットのことなど聞いたこともないような顔で平然とサイコロを振っているアーノルド・ハセルストームと向かい合うエドウィンの中に、怒りがふつふつと煮えたぎっているのを、あたかも窓を締め切った部屋の中でも外が暗くなるのがわかるように、感じとることができた。 

 

年が改まり、木の陰やポーチに最後まで残っていた雪も溶けてしまう頃には、彼はふたたび自分の表面から、奥深い隠れ家へ沈んでしまったのだった。

 

エドウィンは突然僕のほうを向き、むき出しの真剣さでこう言った。「ジェフリー、人が自分の死ぬ時を知っていたらって考えたことあるかい」その時彼の口に、真っ赤なラディッシュがいっぱいに詰まっていたことを、僕はことさら鮮明に覚えている。

 

d.天候描写

美しく晴れ上がった夏の朝だった。空はイースターの卵のブルーの染料に何時間も漬けこまれ、庭の芝生はグリーンのセロハン紙の色で輝いていた。

 

八月の、よく晴れた昼下がりのことだった。芝生は青すぎるほど青く屋根は赤すぎるほど赤く、窓と窓の間で規則的な線を繰り返す白い壁板はまぶしい輝きを放ち、それは白く不透明な表面が光を反射しているというより、ちょうどマルハウス氏がガラスに嵌め込んで白熱電球の前にかざすカラースライドの中の明るい被写体のように、色に染まった透明な物質が内側から何らかの光で照らされているように見えた。  

 

ブルーの色がすっかり干上がった西の空は、不自然なほど白く明るく輝いていた。 

 

その年もまた、雨が冬を洗い流した。空気そのものがほころぶように暖かな風が吹き、遠い海の香りを運んできた。カエデの木々はふたたび赤黒い花をつけた。

 

黄色い原っぱの上の空は青く、もはや青という言葉が当てはまらないくらいに青かった。・・・空は、果てしなく重なる青い透明なガラスでできているように見えた いやむしろ、硬質であると同時に形のない、大きなひとかたまりの青い透明な物質でできているように思えた。なぜなら、それはこの地面を圧迫し、草の葉を押しつぶし、僕の体を仰向けに押しつぶしながら、いっぽうでは僕の心を上へ上へと果てしなく誘い、くらくらするような明るい青に向かって、形のない不吉な青に向かって、らせん形に吸い上げられていくように感じられたからだ。そう、青空は不吉だ。誰しも一度は、空虚であるがゆえに心安く、絶望のようにいっそすがすがしい夜空の黒よりも、昼の青空のほうがずっと恐ろしい何かをその裏に隠しているにちがいないと感じたことがあるはずだ。

 

e.人物描写

彼女はちょうど、水が一滴落ちて乾いたあとの、かすかにでこぼこになった紙のような感じだった。

 

彼女の目標は、黒板消しのように目立たず役に立つ存在になることだった。

 

f.メッセージ性を感じる文章

読者よ!本とはなんだろう?それは頭蓋を内側からじりじりと圧迫して、ここから出せと叫ぶ力だ。作家にとっては拷問にも等しい苦しみだが、とりわけ執筆に行き詰まった作家は悲劇である。なぜなら、その内なる圧力は出口を求めて、どこか別の、より暗い部分へ向かうからだ。じっさい僕はこの世のすべての殺人者と犯罪者は苦しみあぐねた作家であり、言葉では書きようのない彼らの本を血で綴っているだけなのではないかと考えることがあるのだ。 

 

神よ、小説家を憐れみたまえ。小説家は全知全能の崖の高みに立ちながら、ありとあらゆる工夫を凝らしてプロットという名の奔流に大切な情報のかけらを一つ一つ落としこまなければならない。そうやって流れに落とされたかけらは、急流に飲まれてアイスキャンディーの棒のようにひらひら舞っていく。一秒も、いや一秒の十分の一もタイミングを逸してはならない。でないと、多忙でこらえ性のない読者たちはあくびをして彼の本を脇に押しやり、手近な新聞を手にとって、コーンフレークの箱の説明書きと変わりばえのしない貧相なコラムを読み始めるのだから。

 

 

5.おわりに

私の見解は決して的外れなものではないと信じている。

理由は前記の引用文。

もう一点は処女作であるということから。

 

書きたいことがある。

この思いを残したい。

あとは言葉にするだけだ。

この段階まできている熱心な読者にとっては、非常に思い出深い小説になることだろう。

筆を持つきっかけになる読者もいるのではないだろうか。

 

作中で主人公が逝く直前。

11歳の主人公と母親の会話は意図的に取り上げない。

 作品のエンディングも期待を裏切らないので、ぜひ読んでみてほしい。

シビれる本の未来

1.はじめに

今回は小説紹介ではありません。

まさに革新的と言える本を紹介します。

 

 

2.導入

紹介したいのはクレイグ・モド『ぼくらの時代の本』です。

まえがきはこのような文章で締められています。

 

ここに書かれたエッセイは観察の記録である。

シリコンバレーやニューヨークの出版スタートアップでの経験の記録。

自分で出版した経験の記録。

そしてぼくが何度も何度も人生を通じて取り組み、熱中し、恋に落ちて来た一冊一冊の本への愛情の記録だ。

どうか、ぼくらの時代の本について、一緒に考えてみてください。

 

 

 

ぼくらの時代の本

ぼくらの時代の本

 

 

 

3.要約

 本と電子書籍

→同じデータである(紙で読むか、ディスプレイで読むかのみの違い)

電子書籍主流時代が到来しつつある。(AmazonKindleの売り上げの急増)

→本が消えていく

→本の未来は暗い?

→答えはノー。

→紙にする価値のある本が刷られる結果となるから。

→電子機器を使いこなす時代になればなるほど本の存在感が増す。

 

 

4.彼の面白い取り組み

さて、新しい本を買ったとする。

開いた跡、スレのない、新しい紙の匂いがする本を。

皆さんはどのようにその本を読みますか?

 

僕の場合はこうだ。

結論を言うと、どんどん書き込む。

スレも折れも全く気にしない。

手順はこう。

 

  • 読み始める。
  • 鉛筆でも、ボールペンでもなんでも書けるものを今自分がいる場所からなるべく近くから探す。
  • 鳥肌が立つ描写、セクシーな会話に印をつけ、書き込みをする。

 

 

クレイグ氏のアイディアはこうだ。

「考えてみてほしい。同じKindleの本を1万人読んで、下線を引いたりメモを取ったりしたとする。これを集合知としたら面白くないか?ぼくが書き込んだメモを他のKindleユーザーやiBooksユーザーに読んでほしいと思ったら、そういうシステムがあってもいいんじゃないか?」

 

とても面白いアイディアだと思う。

書き込みに抵抗がある人も電子書籍になら気兼ねなくできる。

 

それに!

同じ文章にマークした女性と

まずは食事に行きたい。

ワインを飲みに行きたい。

皆さんはそう思いませんか?

 

少しでも詳細が気になれば、ぜひ読んでみてください。

 

 

4.この本との出会いについて

この本は、東京神楽坂にある本屋カフェ

『かもめブックス 東京』で目立つように置かれていました。

本の選び方がイマイチ掴めていない人、ゾクゾクする本を求めている人(私は後者)

いい本屋さんだと思います。

電子書籍の波に負けない価値ある本を選び、残る本屋だと思います。

新旧のいい本がお客に向かって顔を向けていますよ。

 

 

5.将来の展望について

私自身、本に関する野望がある。

一つ目は小説を書くこと

二つ目は内緒にしている二つのアイディアを書籍化すること

三つ目は本に関する仕事をすること

この本は背中を押し、勇気を与えてくれた。

私事で図々しく。締めます。

1冊分の時間をかけた自己分析

1.はじめに

お盆後に自宅に帰れることが決まりました。

仕事に関し、考えることがたくさんあります。今日はこの本。

結末を思い出す、今日1日なので。

 

 

沈黙 (新潮文庫)

沈黙 (新潮文庫)

 

 

 

2.この本

時代背景が色濃く、読みにくく感じるとは思いますが読む価値がある本です。

選択、生き方、信条ひろくは人生について自己分析できます。

信念を貫きたいものです。

透明な壁に閉じ込められ、腰を曲げられてはいけません。

終わります。

 

家族サービスを考える

1. はじめに

1つ謝ることがあります。

今日紹介する本は以前紹介した作家の作品になります。

まだ長期出張中で本棚から本を取り出すことができないのです。

手持ちの本に、紹介に値する本はありませんでした。

そのため、今日は記憶での紹介をします。

 

レイモンドカーバー

『夏にじます (サマースティールヘッド)』

 

Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選 (中公文庫)

Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選 (中公文庫)

 

 

 

2.本の説明

主人公は少年。

小学校の高学年くらいでしょうか。

父親に川での魚取りについて教わったことがあり、その時のことを鮮明にいい思い出として覚えています。

夏にじますという特別でかく、捕まえるのが難しい魚についてお父さんと話をします。

少年時代を思い出してみてください。

あのワクワクした気持ちを。

ある日、少年は友達と2人で川に遊びに行き(それも学校をさぼって)あの夏にじますを捕まえ、家に持ち帰るのですが.....

その結末に考えさせられるものがあります。

「仕事だから」という言葉に支配されているお父さん。

ハッとするいい作品です。

子供心を思い出すのもいいでしょう。

魚を分けるシーンは考えるところがあります。

 

 

 

オープンリーディング

1.はじめに

週末に散歩をしていると、近所の大学には車が隙間なく駐車されていました。

オープンキャンパスの時期なのですね。

そこで、「オープンリーディング」と題名をつけて本の紹介をします。

大学進学を考える高校生、暇を持て余す大学生に特にお勧めします。

大学に行く意味働く意味づけをする材料になるはずです。

 

「一語一語噛み砕いて」「丸ごと飲み込んで」「部分的に切り取って」

とにかく、持論を持てるよう頑張ってみてください。

 

 

2.引用

パリの皿洗いの生活について、わたしの考えるところを述べておきたい。・・・

現代の大都市で、何千という人が、目をさましているかぎり地下の熱いあなぐらで皿を洗っているということは異常なことだ。・・・問題にしたいのは、なぜこんな生活が続いているのかという原因である。・・・何の役に立っているのか、・・・継続することを望んでいるのは誰なのか、その理由は何なのか。

・・・皿洗いは現代世界の奴隷の一つだということを言っておくべきだろう。・・・この奴隷にあたえられている自由は、奴隷が売買されていたころと変わってはいないのだ。・・・人に屈従しなければならず、手に職もない。給料はやっと生きていけるだけのもの。唯一の休暇は首になった時だけである。結婚とは縁がなく・・・幸運に恵まれないかぎり、・・・他にこの生活から逃れる道はない。・・・大学を出ながら一日十時間から十五時間皿洗いしている人間がいるのだ。・・・怠け者だからだ、とは言えない。怠け者では皿洗いは務まらないのだ。彼らは単に、思考を不可能にしてしまう単純な生活に捕まっただけなのである。皿洗いにすこしでも思考能力があったとしたら、とうの昔に労働組合を結成して、労働改善を要求するストライキを打っていただろう。ただ暇がないから、彼らは考えることをしない。この生活が彼らを奴隷にしてしまったのだ。

・・・問題は、なぜこの奴隷制度がつづいているのかということだ。われわれはとにかく、すべての労働には当然健全な目的があるはずだと考える。誰か他人が嫌な仕事をしているのを見ても、あの仕事も必要なのだと言えば、それで事はすんだと考える。・・・文明社会なのだから、問題にするまでもない、というわけだが果たしてそうだろうか。

・・・われわれは重労働で不愉快なものなら「まっとうな」仕事に違いない、という気持ちになる・・・木を伐っている人を見れば、筋肉を使っているというだけで、社会的役割を果たしていると確信してしまうのである。美しい木を伐り倒して醜悪な銅像を建てる空き地を造っているのではないか、などとは考えもしない。・・・額に汗してパンを稼いでいるが、だからと言って有益な仕事をしているという結論は出ない。

・・・なぜ皿洗いをあいかわらず働かせている人間がいるのか、・・・経済的理由よりもさらに深く、人が一生皿を洗っていると考えては、ある人間が嬉しがる理由を考えてみたい。・・・仕事が必要だろうとなかろうとそれは問題ではなく、働くこと自体が(すくなくとも奴隷にとっては)いいことなのだから、働かせろ、というのである。この感情はいまでも残っている。それが山のような無益な仕事を生み出すのだ。

 無益な仕事を永続的なものにしようとするこの本能の根本には、要するに、大衆にたいする恐怖心があるのでないだろうか。大衆というのは低級な動物だから、暇を与えるのは危険である。・・・体制が変わったら陰気なマルクス流のユートピアにでもなるだろうと思うから、現状維持を選ぶのだ。

・・・大衆を恐れるのは迷信である。・・・大部分の金持ちと貧乏人を区別するものは収入だけであって、平均的な大金持ちは、新調した服で盛装した平均的な皿洗いと変わりはしない。

・・・貧乏人と対等につきあったことあるものなら誰でも承知している。

・・・知識人は飢餓体験とは無縁なのだ。・・・大衆に迷信的恐怖心を抱くのも当然である。・・・一日の自由を得ようとして、下級階級の大群が彼らの家を襲い、本を焼き、機械の番をさせたり、便所掃除をさせたりするのではないかと想像する。・・・考えてしまう。「どんな不正があっても、大衆を解放するよりはましだ」と。・・・金持ち大衆と貧乏人の大衆に違いがない以上、大衆を解放しても何の問題もないということがわかっていない。現実には大衆はすでに解放されているのであって・・・巨大な倦怠を生み出す原動力になっているのは彼らなのである。

 

 

「まあ、何かに興味を持たないとな。浮浪者だからといって、紅茶とパン二切れのことしか考えられないわけじゃない」

「しかし、何かに興味を持つのも容易じゃないでしょう・・・こういう生活をしていると?」

「大道絵師ってことかい?いや、そんなことないよ。かならずしも、意気地なしになるものでもないんでね つまり、何かに打ち込んでればだが」

「たいていの人間はそうなっちゃうみたいですが」

そりゃ、そうだ。バティだってそうだ。こそこそ茶ばかり飲んでるだけで、吸い殻を吸うっきゃ能がない。多少の教育があるんなら、このさき一生放浪生活をしたってかまうことはあるまい」

「そうかな、ぼくは反対のことを考えてましたがね。金をとりあげられたらさいご、その男はそれっきり何もできなくなっちゃうんじゃないかと思って」

「いや、そうとは限らない。その気になれば、金があろうがなかろうが、同じ生き方ができる。本を読んで頭を使っていさえすれば、同じことさ。ただ『こういう生活をしているおれは自由なんだ』と自分に言い聞かせる必要はあるがね」 彼はここで額を叩いた 「それでもう大丈夫だよ」

 

 

やがて船は、ティルベリー埠頭に接岸しようとした。まず目に入った岸の建物は、まるで精神病棟の塀の上からじろじろと眺めている患者たちのように、英国の海岸からこっちをにらんでいる。 

 

 

そこは浮浪者のためのれっきとした休憩所である 草ぼうぼうで、彼らが残していった濡れた新聞紙や錆びた缶を見れば、すぐにわかった。他の浮浪者たちも一人、二人とやってくる。よく晴れた秋日和だった。すぐそばに一段低くなった、ヨモギギクの植えてある花壇があって、このときのヨモギギクの強い匂いは今でも思い出せる気がする。その匂いが浮浪者たちの臭いと競いあっていたのだった。

 

 

パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)

パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)

 

 

3.おわりに

少し難解な引用だったかもしれません。引用文も長くなってしましました。

少しでも気になる部分がある方は是非読んでみてください。

普段は触れることのない方向から問題提起があります。

日本に暮らす人にとっては発見があります。

この作品は、文学作品としても優れていると感じました。

つまり、文章、描写がうまいということです。

下2つの文章を引用したのはそういった理由からです。